Ishizaka Group 
Department of Applied Physics and Quantum-Phase Electronics Center,The University of Tokyo

 Home  Reseach Members  Papers  Instruments  Events  Access 

Research

・剥離法によって得られる原子層フレークの電子状態

図1:2-5層WTe2の光学顕微鏡写真と角度分解光電子分光像。
   テープを用いた剥離法による簡便なグラフェンの作製技術の確立を皮切りに、2次元物質の作製・転写・積層技術は日進月歩の発展をとげてきました。2次元化に伴う対称性の変化や閉じ込め効果によって、2次元物質ではバルク結晶では発現しない特異な物性が発現します。さらに、既知の2次元物質を組み合わせて作製されたファンデルワールス積層体では、非自明なバンド構造が形成されることによって構成要素である2次元物質が単独では発現し得ない物性が創発されます。本研究室では開発を行った顕微レーザー角度分解光電子分光装置を用いてそれらの電子状態を観測し、新奇物質・物性の開拓を行います[1,2]。
[1] M. Sakano*, Y. Tanaka*, S. Masubuchi*, (* equally contributed) et al., Phys. Rev. Research 4, 023247 (2022).
[2] S. Masubuchi*, M. Sakano*, Y. Tanaka* (* equally contributed) et al., Sci. Rep. 12, 10936 (2022).

     
   ・スピン軌道相互作用がもたらす新規物性  
   スピントロニクスの発展にともない、固体中の電子に働く相対論的効果である「スピン軌道相互作用」が注目されています。その一例として、空間反転対称性の破れとスピン軌道相互作用により電子の運動量と結合した自発的スピン分極が生じる「ラシュバ効果」があげられます(図1)。ラシュバ効果を示す物質は、電流・電場によるスピン操作を可能とすることから、スピントロニクス材料として有望視されています。これまでに私たちは、極性層状半導体BiTeIの結晶内部において巨大ラシュバ型スピン分裂バンド構造が形成されていることを明らかにし<span lang="EN-US"></span>、次世代スピントロニクスデバイス開発にむけた物質設計の指針を示してきました[1-3]。これまでに得られた知見を踏まえて、さらなる物質開発・新規物性探求を目指します。

[1] K. Ishizaka, et al., Nature Materials 10, 521-526 (2011).
[2] M. Sakano, et al., Phys. Rev. B 86, 085204 (2012).
[3] M. Sakano, et al., Phys. Rev. Lett. 110, 107204 (2013).
[4] R. Suzuki, M. Sakano et al., Nature Nanotechnology 9, 611-617(2014)
.


図2:ラシュバ効果によってスピン分裂したバンド構造( 
     
  ・トポロジカル絶縁体の電子状態  
    トポロジカル絶縁体は、物質内部(バルク)ではバンドギャップをもつ絶縁体であるのに対し、表面ではディラック電子に支配される金属的なふるまいを示す物質です。表面電子は質量ゼロかつスピン偏極しているため、消費電力の少ない電子デバイスや量子コンピュータへの応用が期待されています。私たちは角度分解光電子分光を用いてトポロジカル絶縁体の表面とバルクにおけるバンド分散(図2)の観測をおこない、表面における電気伝導がより顕著に捉えられる物質の探索をおこなっています。
 
図3:トポロジカル絶縁体表面におけるバンド構造
     
  ・酸化物半導体表面・界面における2次元電子系  
    従来のエレクトロニクスにおいてはシリコンを中心とした半導体技術が用いられてきましたが、その集積化・高機能化には限界が近づいているといわれています。そこでさらなる高機能デバイスの実現に向けて注目を集めているのが金属酸化物を用いた酸化物エレクトロニクスです。酸化物を用いた異種接合界面やFET構造により形成される2次元電子系(図3)の研究は近年盛んにおこなわれており、2次元超電導・磁気秩序や分数量子ホール効果、巨大ゼーベック効果、ラシュバスピン分裂など、これまでに多種多様な現象が報告されています。私たちは酸化物半導体の表面や界面に形成される2次元電子状態を光電子分光法を用いて直接観測することにより、その性質の解明を目指しています。  
図4:酸化物界面における2次元電子系形成の例。
A. Ohtomo and H. Y. Hwang, Nature 427, 423 (2004).
     
   ・鉄系超伝導体の常伝導電子状態  
    2008年に発見された鉄系超伝導体は銅酸化物に次ぐ高い超伝導転移温度(55 K)を示すことから、第二の高温超伝導体として注目されています。超電導の隣接相では、構造相転移およびスピン秩序のほかに、5本の鉄3d軌道が占める電子数に不均衡が生ずる「軌道秩序」の存在が指摘されています(図4)。また、最近これらの相転移の近傍で、電子系が自発的に「回転対称性の破れ(面内で4回対称から2回対称へと低下する)」を示す奇妙な現象も報告されています。このような電子系の回転対称性の破れは銅酸化物においても「電子ネマティック状態」として議論されており、高温超伝導体に偏在する現象である可能性が高まっています。私たちは光電子分光実験をおこない、これらの相転移が電子状態に与える影響について調べています。超伝導を担う電子の素顔である「常伝導電子状態」を知ることにより、鉄系超伝導体の高温超伝導機構の理解を目指します。  
図5:鉄系超伝導体の典型的な相図。TS, TN, Tcはそれぞれ構造相転移、磁気相転移及び超伝導転移温度を示す。 S. Kasaha et al., PRB 81, 184519 (2010).
     
   ・鉄系超伝導体の超伝導機構  
    近年の盛んな研究により、鉄系超伝導体ではスピンのみならず軌道自由度が超伝導形成に重要な寄与を与えることが明らかになりつつあります[1]。私たちは、光電子分光法を用いてバンド分散の観測をおこない、各軌道における超伝導ギャップのサイズや対称性を調べています。電子の複数の内部自由度が関与する新しい超伝導機構について知見を得ることを目指しています(図5)。
[1] T. Shimojima et al., Science 332, 564 (2011).
 
図6:3つの超伝導メカニズムの模式図。上から格子振動、スピン揺らぎ、軌道揺らぎを媒介とする場合。
     
   ・低次元分子性導体の物性と電子構造の研究  
    分子間の結合で構成される分子性結晶は、π結合に由来する分子同士の異方的なオーバーラップにより、擬一次元や擬二次元といった低次元電子構造を豊富にもち合わせた物質群です(図6)。これに加え、分子内自由度や分子性結合由来のやわらかさなど、無機物にはない多くの性質をもつことも特徴です。本研究では、朝永ラッティンジャー液体やスピン・電荷密度波形成を示す1次元分子性導体や、非従来型超伝導やスピン液体状態を示す2次元分子性導体を対象として、その電子構造の解明を目指しています。  図7:有機導体(BEDT-TTF)3Br(pBIB)の結晶構造。 T. Kiss et al., Nature Communications, 3, 1089 (2012).
Copyright © Ishizaka Group, Department of Applied Physics and Quantum-Phase Electronics Center, The University of Tokyo. All rights reserved.